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OPINION「映画プロデューサー 三好保洋」

こんな時代だからこそ、地道に社会派作品を追求していきたい

今年初め地元の国見町文化会館で開催された我々の作品の試写会に杉田真一監督と一緒に参加させていただいた時、そこで頂いた皆様からの暖かい拍手が今だに忘れられません。

この作品は「人の望みの喜びよ」という作品ですが、初出品ながら一昨年のベルリン映画際で特別賞をいただきました。
震災後に取り遺された12歳と5歳の幼い2人の姉弟のその後を描いた作品なのですが、今や誰もが無視できない社会的な問題である震災をテーマに取り上げ日常生活を丁寧に描いたのが良かったのではないかと思っています。

私自身、もともと映画には興味があって将来は映画の仕事に携わってみたい、と子どもの頃から夢をもっていました。
国見で育って高校卒業後に上京、最初は2年ほどサラリーマン生活も経験しましたが、その間も映画への思いは断ち切れませんでした。
そんなある時、たまたま新聞の求人チラシで映画関係の仕事を見つけてすぐに応募し、運よく採用されたのがこの世界に入る切っ掛けとなりました。

そこでいろいろな仕事を経験しましたが、8年くらい前に今回の作品の監督である杉田さんが当時アシスタントプロデューサーを務めた映画「神童」を観て興味を抱き、以後も彼とは映画の製作現場で出会い、2011年に彼が製作し国内外で受賞を重ねた短編映画「大きな財布」を観て改めて感銘を受けました。

当時から杉田さんとは同年代ということもあって意気投合し、今回初めて長編作品を手掛けることになったのです。

製作に際しては、原作の手を借りず“絶対にオリジナル作品を”という意気込みであれやこれやとアイディアを出し合い悩みながらも二人三脚でストーリーを考えました。
最終的には神戸出身で監督自身も実際に被災を経験した震災をテーマにすることになりました。

この映画の脚本は監督自らが担当しましたが、映画製作の全ての権限をもつプロデューサーは私が担当しました。

大手製作会社では私たちの意図を細かく表現することは予算面からも難しいので、自主製作の形をとりました。
その分、ロケやタレントなど出演スタッフもこじんまりとなりましたが、主役の姉と弟役の2人については大勢集まったオーディションの時からどこか他と異なる個性が光っていましたね。
もしこの映画が成功だとしたら、この2人の自然な演技に負うところが一番大きいと思います。

ロケ地にしてもそうです。
震災後に親戚の家に引き取られ生活をする場所は“大きな海と空、それに小さな船と電車”がある場所という設定なので、出来れば身近で見つけたかったのです。
監督の杉田さんが長崎の五島などをロケハンで回ったのですが、その途中でついでに立ち寄った雲仙市や国見地区なども回ってそこが気に入ったのです。

私も国見で育ちましたから異存はありません、実際のロケの現場も私が以前通った神代小学校や雲仙市みずほすこやかランドなど数多く登場し、生徒達や地元の方々には本当にお世話になりました。
実は、ベルリン映画祭の試写会後に行われた質疑応答では、「あの映画を撮った場所はどこか?」と言う質問なども多くありましたが、その時は私自身も内心鼻高々の気分でした。
余談ですが、会場でのこのようなやりとりの雰囲気から生意気にもこれはいけるかも・・・、という期待感があったのも事実です。

この映画は既に昨年から東京や大阪、名古屋、京都で上映され今後は神戸などでも上映予定ですが、海外でもドイツやブラジルなどでも密かなヒット作となっているんですよ。
米国でもロスアンジェルスやシアトルでも上映され、これを観た現地の映画プロデューサーの紹介で今、NYでの公開も検討中です。

国内での発表時にはほとんどの全国紙や雑誌などに好意的な記事を掲載していただきましたが、今年の3月からはテレビのCS映画チャンネルでも放送され、現在、他の局とも交渉中です。
本当にありがたいことだと感謝の念がいっぱいなのですが、他方では内心ほっとした気持ちと同時にやりがいも感じています。
映画を選んで本当によかったと思っています。

私自身はこれに浮かれることなく、今後も我々の身近に起こりうる社会的な問題や課題に正面から向き合い真面目な作品を追求していきたいと考えていますが、一方では郷里でもある島原半島の素晴らしい環境や自然、伝統・文化をテーマに、これを映画と観光に上手に連動できるような作品も手掛けてみたいと思っています。

三好保洋(みよし・やすひろ)
プロフィール
映画プロデューサー。
1979年(昭和54)国見町生まれ。
フリーで活躍していたが現在は製作企画会社のランプ(株)に所属。
国見中から島原工業高校に進み2年間のサラリーマン生活を経て映画プロデューサーとなるが「出来れば監督もやってみたい」と意欲的。
世界3大映画祭のひとつとして有名なベルリン映画祭では、‘14年に初出品の「人の望みの喜びよ」が子どもが審査員を務める「ジェネレーションKプラス」部門で特別表彰を受けた。

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