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OPINION「九大大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター長 清水 洋」

出身は群馬県前橋市です。
地球物理学に興味があったので東北大学では大学院の理学研究科で博士後期課程を修了し、同時に昭和60年に九州大学の助手に採用されました。
以来、島原を中心に地震や火山噴火予知に関する観測と研究を行ってきました。
こちらに勤務した当時は、まさか雲仙普賢岳があのような大噴火災害を起こすとは考えもしませんでしたが、今年9月に発生した御嶽山噴火のように今や以前のような死火山や休火山という区分は全く意味がなくなってしまいました。
特に、それまで死火山とみられていた1979年の木曽御嶽山の噴火以降は、すべてが“火山”という統一的な定義に変えざるを得なくなりました。
島原半島に住む地元の人たちには気になることでしょうが、雲仙普賢岳の再噴火も今後絶対に無いとは言い切れません。
我々の観測によれば、今は新たなマグマの兆候は見られません。
全体的には静かな状態にあるといえるでしょう。
しかし、これはどの火山にも言えることですが、前兆の無い小規模な噴火はいつどこで発生しても不思議ではないのです。
やはり気を抜かず日頃からの防災への備えは大切です。

最近は、先日の御嶽山をはじめ桜島や霧島など各地で噴火が起きているせいか火山噴火が多いように感じますが、むしろ江戸時代以前にくらべ明治以降の百数十年間は大きな噴火は少ない時期なのです。
見方を変えればこれが我が国の発展にもプラスの影響を与えてきたといえるでしょう。

しかし、だからといって次の100年間も静かなのか?と言えば一概にはそうともいえません。
われわれ人間は平均的にはせいぜい80年くらいの寿命ですが、火山は何万~何十万年という単位で活動を続けているのです。
このスパンで見れば100~200年という単位は火山の活動ではほんの一瞬でしかないのです。

ところで、最近の私は週のほとんどを東京での会議や九大のキャンパスで学生に教える時間に取られ忙しくなってしまいましたが、思い起こすと雲仙普賢岳の噴火当時にも観測や研究活動だけでなく各方面への情報提供などで毎日多忙をきわめていました。
そんな中でも国際陸上科学掘削計画(ICDP)との共同プロジェクトとして海外数か国の科学者と一緒に取り組んだ雲仙科学掘削プロジェクトは思い出深い仕事のひとつでした。

これは、苦心を重ねて普賢岳に2kmにも及ぶ坑道を掘って実際にマグマを採取するために行ったものですが、準備期間も含めると6年にも及ぶ大規模なもので各国の技術を結集した世界でも初めての事業でした。
だから、多くの火山の中でも雲仙普賢岳は特別に詳しく調査が行われた世界でも貴重なケースでもあるのです。
そうは言っても本当のマグマ溜りは地下約10km。
そこまでいくのは今の科学技術では無理ですが、いつかは実現して「地球の解体新書」が作れればいいのですが。
今、ここの地震火山観測研究センターには私の他に准教授2名、助教1名、技術職員2名の常勤スタッフに加え、非常勤の研究員や一般職員、専門コースの学生など計10数名が観測や研究、及びそれらのサポートに励んでいます。

国立大学の独立行政法人化以降、IT(情報技術)を使った観測技術の進歩もあって現在は主要大学の現地観測所はどこも縮小や無人化の傾向にありますが、私としては本来の研究以外に現在行っている地元の島原防災塾塾長や長崎県が主催する各地域の自治組織の防災リーダー養成のための講師などとしても今後も活動を続けていきたいと思っています。

また、そこでは噴火災害という火山の“負の側面”だけでなく、島原半島ジオパークもまさにそうですが“火山を知り火山と共生する楽しみ”といった面にも興味をもってもらえるよう小学生達も含めて幅広く活動していくつもりです。
ところで、私も島原に住んで30年近くになりすっかり九州人になりましたが、“かかあ天下”で有名な上州・前橋から文化の違う九州に来るに際しては、大学の恩師からは「おまえ大丈夫か?」と心配されました。
実際にこちらに来てみると、皆がオープンに受け入れてくれてフレンドリーな感じだったので全く問題ありませんでした。
ただ、来た当初は味噌と醤油が甘く慣れるまでには大分時間がかかりましたけどね。

清水 洋(しみず・ひろし)
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プロフィール昭和31年(1956)生まれ、群馬県前橋市出身。
理学博士。
同55年、東北大学理学部を卒業し同大学院へ進学。
同60年、理学研究科博士後期課程修了と同時に九州大学助手、同大理学部附属島原地震火山観測所に勤務。
平成10年、教授に就任し同16年から同地震火山観測研究センター長。
主に地震及び火山噴火予知の基礎研究を行っている。
現在、国の地震調査委員会や火山噴火予知連絡会副会長、また地方自治体の防災教育などでも幅広く活躍中。

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